ITpro Challenge! 2008 (+ 非公式懇親会) 雑感

十日の菊、六日の菖蒲と笑われそうだが、去る 9 月 5 日(金)に目黒で開催された「ITpro Challenge! 2008」に出席した感想などを今さら記すことにします。

会の詳細なレポートは、公式ブログの 9/5 のエントリーを参照してください。

モバゲータウンを一人で作った」 DeNA 川崎修平

若くしてかなりすごいことを成し遂げた割に、気取らず飾らず淡々と話を進める姿に好印象を持った。「できたらすごいと思える問題設定をするのが大切」「こんなのができたらワクワクするよね、絶対に人に勧めたくなるよね、というようなサービスを作る」という発言が印象的だった。

オープンソースで育つエンジニアリング・スキル」 Nexedi 奥地秀則氏

株式会社 Nexedi 代表取締役社長、フランス Nexedi SA最高技術責任者などの肩書きを持つ奥地さんだが、パソコンとの出会いは高校 3 年生になってからで、大学に入ってからかの「京大マイコンクラブ(KMC)」で鍛え上げられたという。この業界で名を知られている人たちは皆子供の頃からコンピュータに慣れ親しんでいるという思い込みがあったので驚いた。

印象的だった言葉は「『できないからやらない』のではなく、『やらないからできない』」。ブートローダなんて知らずに GRUB のメンテナになり、経営のことなんて何も知らなかったけれど、知らなかったからこそその世界に入った、とさらりと語る。

新しいことを始めるに際しては「保守的な冒険」を勧めていた。今から始めることがダメになっても何とかなるという保険をかけておくことが大切で、奥地さんの場合はすぐには食いっぱぐれることのない蓄えと、これがダメでも技術者としてどこかで働けるだろうという自信があってこその冒険だったとのことだ。

「Why open matters」 Six Apart 宮川達彦

米国 Six Apart 社の創設者である Ben が来日するに当たって食事を共にすることとなり、それに先立って履歴書を送ってほしいと言われた宮川さん。英語の resume を書くのが面倒なので、今まで CPAN に登録したモジュール一覧を履歴書代わりにしたところ、「あなたの書いたモジュールを全部見た。ぜひわが社に来てほしい」と言われたという。今まで公開した技術がその人の実力を担保してくれる好例だと思った(と言うのは易しいが、もちろん一朝一夕にできることではない)。白駱駝賞受賞についても、「みんなを代表して自分が受け取ったと思っている」と腰が低い。素晴らしい方だと思った。

「シミュレーション的発想によるプログラミング」 Dreamboat 金子勇

「自分はプログラマではなくシミュレーション屋。プログラミングはアイディアの表現物」と言い切る金子さん。「英語が話せる人は皆翻訳家か、そうではないでしょう、だから自分も自分のことはプログラマだとは思っていない」。

シミュレーションプログラムを書くに当たって、初期設定は重視しない、基本モデルは簡単なほうがいい、予想外の結果や試行錯誤の過程を重視する(予想どおりに結果が出たら意味がない)、など、業務システム構築とはまったくベクトルの違う考えが興味深かった。

最後の「プログラムは自己表現なので検閲しないよう願います」という自虐的な発言が笑えないセッションだった。

ライトニングトーク

印象に残ったものをいくつか。

  • COBOL プログラマが Ruby で挑む! RetroTube 開発記」という ITpro の短期連載を読んで感動したので、id:quill3 さんの「ギーク図書館」は楽しみにしていた。10 本の発表の中では最もよい発表だったと思う。ITpro Challenge! 2008 について書かれた他のブログ記事を見ても、「ギーク図書館」の発表はおおむね好評を博していたようだ。ご本人がブログで「かなりの緊張しい」と書かれていたのは意外。
  • 「ならべて」の秋元さん、独自性のあるものは英語版も展開するという話は見習わないといけないと痛感した。
  • 「コモンズ・マーカー」の星さんは、元編集者という視点からサービスを実装したという。一人で作る Web 開発では技術者の視点が中心になりがちなので、大変よい示唆をいただくことができた。

非公式懇親会

去年は懇親会の存在を知らずに会場で臍を噛んだが、今年は事前に気づいて申し込みを果たした。

Web 業界では無名の私だが、いろいろな方とお話をする。予告どおりにプロジェクタが設置されていたので、私が発行しているメルマガをネタに「高齢者と Web アプリケーション」というお題で約 5 分の発表をさせていただいた。表紙が画面に出たときには「おー、社会派だ」という声も聞こえたが、内容はジョークやユーモアをふんだんに交えたもので、爆笑のうちに終了できた。多くの皆さんに聞いていただけて感謝しています。

感心したのが、懇親会の最中に早くも ITpro Challenge! 2008 の記事が ITpro Challenge! ブログにアップロードされていたことだ。ITpro の高橋信頼氏は仕事が早いことはかねてから聞いてはいたが、目の当たりにすると背筋が伸びる。

プロジェクタで投影された Web の画面を金子さんの弁護士さんが丹念にチェックしている。金子さんに「担当の弁護士さんですか」と伺うと、「ええ、彼は私のプロクシです。彼がいないと何もしゃべれないので」と自嘲気味に笑ったのが印象的だった。

モバゲータウンの川崎さんとお話をすることができた。携帯ユーザはサービスのダウンや不具合に寛容という話が発表の中であったことに触れ、デブサミ 2008DeNA の松内良介氏が「モバゲータウン開発の裏側」という題で「データベースの切り替えは明け方の 4 時から一人の技術者が 5 分くらいで行う。以前、徹夜明けの技術者にやらせたら、不注意で手順を失敗し、日記データの 4 分の 3 が飛んだことがある」とお話ししていたことを伝えた。川崎さん曰く、やはりケータイで日記を書いている 10 代の女性ユーザは寛容で、「あーあ」とは思うもののすぐに立ち直るらしい。彼女たちにとって、日記はコミュニケーションの手段であり、我々 PC ユーザがブログをライフロギングや技術資料置き場として利用しているのとは根本的に考え方が違うのだろうという意見で一致した。

このような会に出ると、東京の熱気をうらやましく思う。幸い、私は長野という東京からほど近い地に住んでいるので、インターネットで東京との距離を縮めつつ、いかに東京のパワーをもらって活動するかを今後重点的に考えてゆこうと思った。