「エンジニアの未来サミット 0905 エンジニア・サバイバル」雑感

前回のエントリー「『エンジニアの未来サミット 0905」私的不完全議事録」にはたくさんのブックマーク、スター、引用をいただきました。ありがとうございました。

かなり出遅れましたが、私個人の感想を記すことにします。

【第一部】おしえて! アルファギーク─エンジニアが幸せになる方法

自分の意思で未来を作る

前回の開催について id:miyagawa さんのご意見が反映されたわけではないだろうが、今回は吉岡さんと弾さんがそれぞれ別の部に参加された。お二人とも会をぐいぐい引っ張ってゆくタイプの方なので、これは正解だったと思う。

前回の第一部は「自己責任」という単語が何度も出てきて、これから IT 業界を目指す学生さんには冷たい印象を与えたのではないかと思ったが、今回はセッションの副題どおり、総じて「明るい未来の作り方」に重点が置かれた話になったのは嬉しい。

印象的だったのは、吉岡さんのこの発言だ。


今では家で、自分の意思さえあればできる。コードを読み、パッチを作り、メーリングリストに投げ……とできる。シリコンバレーに出稼ぎに行かなければできなかったことが、今は自分の意思さえあればできる。これはすごいこと。履歴書に「Perl のモジュールを作った」と自分の意思で書ける。Rubyメーリングリストなんて日々日本語でやりとりされているので、英語が読めなくても自分の意思さえあれば自分のパソコンでパッチを作ることができる。そういう観点から、自分のキャリアを自分で設計できる。

この部分は実際はもう少し長く、「自分の意思で」というフレーズが何度も何度も出てきた。議事録ではそのニュアンスを伝えるべく、「自分の意思」という言葉を繰り返し掲載した。50 代の先輩から、「自分の意思で動けば何かが変わるんだ、だから動こうよ」という熱いメッセージが送られているのだ。この吉岡さんの魂の言葉を、私はまっすぐ受け止めたい。

前回の議事録から、吉岡さんと弾さんのやりとりを引用する。


よしおか「人に言われてやるのではなく自分でやるのが大切。多くの人は手を動かさずに思うだけ。手を動かしてもたいてい失敗するが、たまたまうまくいったのがひがさん」

弾「運がよかっただけでは」

よしおか「でも宝くじを買わなければ当たらない」

弾「宝くじはオッズが分かっている」

よしおか「でもやらなきゃ。ここにいる 200 人はわざわざここに来たという奇跡。自分で来た、上司に言われて来たのではないのが奇跡。そういう行動を積み重ねていけば、いつか今の自分になる」

オープン時代のロールモデル

谷口さんが、宮川達彦さんをロールモデルにして自分のキャリアを形成していった話は示唆に富む。

ソフトウェアの世界では、インターネットのおかげで、ものすごいスーパースターの活躍が手に取るように分かってしまう。あの人のようにはとてもなれない、さりとて身近に尊敬できる人もいない、と閉塞感に苛まれている人もいるだろう。

私に言わせれば、すごい人をロールモデルにして何が悪いと思う。第二の宮川さんになれなくても、宮川さんをすごいと思い、宮川さんのやってきたことをなぞれば、それで一歩前へ出られる。それを地道にやった谷口さんを、私は心から尊敬します。

梅田望夫氏の著書『ウェブ時代をゆく』に「ロールモデル思考法」という考え方が出てくる。自分があの人のようになりたいと思う人物を設定し、その人のどの部分を望んでいるのかを考え、そうなるための行動を積み重ねてゆくというものだ。対象の人物は小説や漫画などの架空の人物でもいいし、その人物のすべてを尊敬する必要はない。

たとえば私なら、「地方で IT の仕事を独立して行う」という目標があるので、信濃の国より条件の悪い出雲で活躍されている Matz さんはロールモデルの一人だ。「お前はまつもとゆきひろの足下にも及ばない」なんて言われても、最終目標地点が違うので気にならない。

別に公言する必要はないので、偉大な人を今日から自分のロールモデルに設定して行動してみませんか。

今回の MVP はひがさん?

前回は、最後の最後で谷口さんが言い放った「残糞感」という言葉が強烈すぎて、「にぽたんが全部持って行っちゃった」と揶揄されていたが、今回はひがさんのこの発言がウェブの各所にコピペされている模様だ。


ひが  「もう日本は立ち直れない、だからシリコンバレーに行くべきだ」ということを海外から言う人をギャフンと言わせるようなエンジニアになってほしい(会場笑い)。

「会場笑い」と書いたが、実際には大爆笑だった。皆さん、あの「もう日本は……」には腹の中でくすぶるものがあったのですね。

ひがさんはほかにも、「IPA のフォーラムは、老害はどういうものかを知る場所」という発言で会場の爆笑を誘っていた。ひがさんの歯に衣着せぬ発言で胸がスッとした人、多かったのでは。

【第二部】弾 vs. 個性派エンジニア ─サバイバル討論

東京と地方

興味深かったのは、東京と地方の話だ。中国山地の山懐にある津山高専で 7 年間学んだ井上さんですら、「技術力をつけるには東京にいることはアドバンテージ」と言っている。それを裏づけるかのように、都内では毎日どこかで何かしらの勉強会が開かれ、ふらっと電車に乗れば会場の熱気の中に身を置くことができる。

一方、「どっしり腰を据えて考えるのは、ノイズが多い東京より地方のほうがいい」(楠さん)という意見も出た。そう言えば、東北大学がよい論文をたくさん出すのは、周囲に遊ぶ所がないからだという話を聞いたことがある。

地方在住の私から見ても、地方には勉強会がなかなかない。需要はあるはずだが、技術者の人口密度を考えると、平日の夜にちょっと集まって、とはやりにくいのが実情だ。

ただ、ウェブの発展の恩恵をより大きく受けているのは地方だ。大きな書店が近くになくても、アマゾンや cbook24.com などで技術書をいつでも手に入れられるようになった。本を買わなくても情報は集められるし、発信だってできる。今回のイベントにしても、私は長野の自宅から参加することができた。物理的に集うことの重要性は何事にも代えられないが、何も毎日オフラインで集まる必要もない。普段は地方で静謐なコーディング生活を送り、ここぞという時に上京するというライフスタイルも悪くない。

ウェブ系の技術者は、よくこう言う。「コードで世界を変えられる」と。では、東京一極集中になっている日本の IT 産業の現状に疑問を抱いているウェブの技術者は、東京で技術力を身につけ、それを地元に持ち帰って産業の芽を育ててほしい。全国のユーザーを相手にするウェブの仕事なら、東京都区内でやるのも地方でやるのも大した差はないはずだ──高速回線さえあれば。

IT がユビキタスになるように IT の技術者や産業も日本国内に遍在する世の中になれば、この国はもっと元気になれるような気がしている。私もそのために行動します。

個人的な感想・反省

長くなったので、あとは箇条書きで。

  • 画面に映っていない人の発言は、誰の声だか分からなくて議事録に載せられなかった。「弾さんの夜のスイッチの入れ方を知りたい」とかいろいろ笑える発言もたくさんあったのだが、それらについては近いうちに技術評論社から公開されるはずのイベント動画をご覧ください。
  • 第二部で、座席とお名前が私の中で一致せず、議事録を取り損ねた時間があった。慌てて紙に席次表を書いて、それを見ながら作業を続けた。自分の記憶力を過信してはいけないと思った。
  • 第二部の最後、井上さんがホワイトボードに書いた言葉は「自重しろwww」ではなく「自重しwww」だったかも。
  • 「当日の 13 時から 17 時半までは絶対に部屋に入ってきたり呼んだりしないでくれ」とのお願いを守ってくれた妻と娘に感謝します。あの議事録を公開できたのは貴女たちのおかげです。本当にありがとう。このブログを読んでないのは知っているけれど。
  • Twitter 経由であの議事録を見に来てくれた人がたくさんいて、今さらながら Twitter の力に驚いた。これを機に Twitter のアカウントを作りました。ID は suno88 です。
  • はてブが、第一部、第二部、ページ全体(URL 末尾の「/」なし)、ページ全体(URL 末尾の「/」あり)の 4 つに分散してしまった。構成を失敗したと思った。はてなダイアリー、分かりにくいよ……。
  • 「2009 年 5 月を『0905』と表記するセンスはどうよ」という意見を複数見たが、激しく同意。でも、もしかしたら次に「エンジニアの未来サミット 0911」なるものを開催する布石なのかも。技術評論社さん、パソナテックさん、期待しています。
  • イベントの内容を Twitter で中継するのを「tsudaる」と言うらしい。イベントの詳細な議事録を当日中に公開するのを「sunoる」と呼んでもらえるようになるまでがんばります :-)