『使える! 社長の四字熟語 100 選 経営に効く本!』──むしろ社長以外の人に

経営者向けの無料メールマガジンがんばれ社長! 今日のポイント」を発行し続けている名古屋の経営コンサルタント、武沢信行さんの 5 冊目となる書き下ろしだ。


題名に「社長の」とあるが、対象とする読者は経営者に限らない。この題名で損をしていると私は思うが、「まえがき」にも

今回もこの本を著すにあたっては、日刊メルマガ同様、社長に読んでいただくことを強く意識して書いているが、「社長」という言葉の意味を拡大解釈して構わないと思う。

それは、人間みな自分会社の社長であり、自分という商品を今の会社に売っているマネジメント会社の社長があなたという意味だ。だからあなたがサラリーマンであろうとも、学生、教師、専門家、主婦、無職、であろうとも、老若男女関係なく、すでにあなたは社長なのだから読んでほしい。

だからタイトルも「使える! 社長の四字熟語 100 選」とした。

と書かれている。後述するが、この本はむしろ社長以外の一般の人に広く読んでほしいと私は思う。

さて、この本がユニークなのは、「四字熟語解説本」のように見えて実はそうでないという点にある。見開き 2 ページでひとつの四字熟語が説明されているのだが、実際の辞書的な意味は高々数行しか書かれておらず、残りはすべて武沢さんの「超訳」──その四字熟語に関係のある武沢さんの体験やエピソード、あるいは武沢さんの思いが綴られているのだ。

例えば、35 番「迂直之計(うちょくのけい)」の「語源」は、

急がば回れ」ということ。遠回りのようだが、実はそれが効果的であること。『孫子』に出てくる「人に遅れて発し、人に先んじて至る者は、『迂直の計』を知る者なり」が語源。

とだけ解説され、その後ろに武沢さんの「超訳」が 25 行続く。IT によってカンタンに情報発信できるようになってチャンスが広がった半面、「有名無力」の個人や会社が目立つようになった、私たちは積極的に「無名有力」であろうとするくらいでいいのではないか──という持論に続き、

あわたてり焦ったりしたら「迂直之計」を思いだそう。必要以上に有名になろう、時間を短縮しよう、スピードをあげようと思うな。人それぞれにふさわしいスピードがある。

という文章で締められている。「○○するだけで年収◆千万」「△週間で▼億円稼いだ秘密とは」のようなキャッチーなコピーに辟易している私は、この超訳快哉を叫んだ。

掲載されている 100 の四字熟語すべてに、このような「武沢超訳」がついている。この本の醍醐味は、「超訳」を通じて武沢さんの経営哲学、人生哲学を知ることにある。100 の四字熟語を厳選するにあたり、「陰陰滅滅」などのネガティブな語は外したというのもうなずける。

もちろん、純粋に四字熟語の本として読んでも「玩物喪志(がんぶつそうし、無用なものにとらわれて大切な志を失うこと)」、「紫蘭之化(しらんのか、よい友人と交際することで受けるよい感化)」など、ちょっと人に自慢したくなる知識も得られる。

100 の中に「酒池肉林」が入っているのも面白い。意味はご存じのとおり。「超訳」では「自己解放」のすすめとして、初代桂春団治藤山寛美の破天荒な私生活を紹介した上で、「そこまでの破天荒を奨励するつもりはないが、自分なりの自己解放の方法を持つのは大切」としている。「社長の四字熟語」という本に遊びを勧める一節があるとは、実に心憎い。

最後の第 7 章「骨太に経営する」に掲載されている 8 つの四字熟語は、いわゆる「四字熟語」と呼ばれるものではなく、武沢さんの造語──と言っても普通の日本語だが──となっている。「経営計画」という造語のページでは会社や人生の経営計画書の作り方を指南し、「熱海会談」では松下幸之助松下電器(現パナソニック)の代理店社長らとの計 270 人での会談の模様を紹介する。なお、この「熱海会談」については、メールマガジン1,996 号1,997 号に詳しい。

最後の四字熟語は、武沢造語の「偉大領域」だ。武沢さんはかねてから「自分の『偉大ゾーン』を認識し、偉大ゾーンに資源を集中すべし」という教えを説いている。私はこの考えが非常に気に入っていて、その言葉が表記を変えてこの本のトリを飾っているのが嬉しい。

難しい四字熟語もあるが、「超訳」はおしなべて読みやすく、小難しい説教めいた話はない。見開き 2 ページ単位で書かれているので、好きなページを拾って読むことができる点もいいと思う(でも通して読んでほしい本だと思う)。

四字熟語の知識と一緒に人生や経営への意欲が沸いてくる良書、おすすめします。